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January 7, 2011
実朝の首 (葉室 麟)

★★☆☆☆
読みにくい。こんなに読みにくい本は始めてだ。文章は美しいけれど緻密すぎる!!脇役がわらわらでてきてその度にこと細かに脱線するからちっとも的が絞れなかった。著者の "銀漢の賦" は好評だったはずなのにな。
朝夷名三郎 (朝比奈三郎) だけは "霊鬼頼朝" の第四話で、実朝が反乱した和田一族の首を検分した際、首がなかったと書かれていたので、かろうじて覚えていました。"炎環" や "霊鬼頼朝" ではマイナーな人物に焦点を当てた作品を楽しみましたが、"実朝の首" までくるとモトとする自分の知識も浅いので難しく感じたのでしょうか。
実朝の首を持ち去った公暁も事件ののちすぐに打たれたのに肝心の首が見つからない。後継者問題でそれどころではない折に必死になって首を探す北条氏。一方、和田合戦では大暴れしたものの、実朝に忠義を貫こうと、供養する為に首を奪って逃走する 和田の残党。なんとも薄気味の悪い話です。
鎌倉は周囲を丘陵で囲まれているため、鎌倉への入り口として "七口" と呼ばれる7ヶ所の切通しが開かれたそう。どれも山中にあるのだろうから、極楽寺坂口、大仏坂口、化粧坂口、巨福呂坂口、朝比名口、名越坂口、亀ヶ谷口、の全部を見て回るのは難しいだろうな。
ところで、公暁が実朝暗殺の時身を隠した話の伝わる鶴岡八幡宮の大銀杏。2010年に強風でポッキリ!折れてしまったのですね。見たかったのに残念。鎌倉時代にすでに "大" 銀杏だったのならかなりの老木ということになります。現在は切り株の姿になってしまった大銀杏に、ちらほらと新芽が見られるそうです。
霊鬼頼朝 (高橋 直樹)

★★☆☆☆
坂東の武士を率いて鎌倉に幕府をひらいた源頼朝。彼の敵、身内、家人などから恐れられ、または慕われていた、様々な頼朝像で構成される短編集。霊鬼といっても頼朝が化けて出てくる話ではありません。
さて、その様々な頼朝像を提供してくれる主人公は四人。頼朝と大進局の子、貞暁。清盛の甥、平時忠。頼朝の異母弟、源義経。頼朝の次男で三代将軍、源実朝。
弟の範頼や義経を容赦なく抹殺し、権力を盤石にしたのもつかの間、頼朝以降の源氏の血統が次々と絶えていく様子はとにかくどろどろに暗い。平家の滅亡から奥州藤原と義経の最期。頼朝亡きあと二代将軍頼家の暗殺。三代将軍実朝の暗殺に続いて後継のゴタゴタ。著者の硬い文体で骨肉の争いを描いています。
第一話で実朝暗殺の一報が、嫡流の貞暁と禅暁 (頼家の子) に届きます。第四話は実朝が公暁に暗殺されて終わり、そこで第一話に繋がります。時系列で追うと、第二話→第三話→第四話→第一話、となっています。ちょっとごちゃごちゃですが、政子によって早々と出家させられ、密やかに生活していた2人に将軍職相続の白羽の矢がたつシーンがなんとも寒々しく印象的だったので、冒頭に持ってきたのは効果的だったと思います。
鎌倉の知っている地名が出てきたのは、貞暁が母親に連れられ極楽寺坂を越えていく寂しい件。頼朝つきの御使雑色が静御前の出産した男児を由比ケ浜に投げ込む件。和田義盛の乱で燃える大蔵御所。どれもこれも救いがないなかで、実朝が幼いころ頼朝に連れられて小坪の浜で父子水入らずで遊ぶシーンだけが妙にほのぼのと心に残りました。
炎環 (永井 路子)

★★★★★
炎環。ものすごく楽しみにしていました。直木賞受賞作。歴史の表舞台にはなかなか出てこない四人の視点から、全盛期の鎌倉幕府を記した短編集。
登場人物は 阿野全成。梶原景時。北条保子。北条義時。
"この四編はそれぞれ長編の一章でもなく、独立した短編でもありません" と著者があとがきでふれているように、ひとりひとりが主役のつもりで行動した結果として誰もが予想しなかった方向に歴史が流れていく様が描かれています。人間個々の存在の儚さや意志の虚しさを感じさせてくれる、壮大なスケールの作品でした。
"悪禅師" に出てくる義経が印象的でした。いかにも政治闘争に無頓着で人懐っこく、兄の寵を頼んで無邪気に張り切る小冠者。これが私の中ですっかり義経像として定着してしまったようです。でも主人公はあくまで全成。一ノ谷も壇ノ浦も、義経の活躍を内心苦々しく見ている鎌倉の頼朝と全成の描写に始終しています。
頼朝亡き後の全成の暗躍。しかしそれが実を結ばす、頼家にあっさり殺されてしまうまでを読めるのも、マイナーな人物に焦点をあてた "炎環" ならでは。幕府権力を安定させる為、政治的手腕を遺憾なく発揮して頼朝を支えた梶原景時。彼が任官を受けた義経を叱責する件も圧巻です。
頼家の子公暁が、保子が乳母として養育した実朝を殺す件は、全成亡き後の保子の視点で描かれています。そして嫡流の男児が軒並み殺されてしまったあとで北条義時の台頭。四つの物語が同じシーンを描きながらも重複せず、密接に関係しながらも少しずつずれている距離感は本当に見事です。
義経 (宮尾 登美子)

★★★☆☆
著者の "篤姫" と "菊籬" は読みました。
さて。ヒーロー義経が、女性をテーマにした著書の多い宮尾氏バージョンではどのような活躍を見せてくれるのでしょうか?と思った矢先、いきなり宮尾氏が語り部として登場するスタイルにびっくり。
著者の故郷高知では、節句に立てるのぼりをフラフというそうです。そこに描かれていた武者絵は圧倒的に義経を描いた柄が多かった、という挿話から始まり、宮尾氏が史実に沿って淡々と義経の生涯を追っていきます。
こうだったのではないでしょうか?こうは考えられないでしょうか?と語りかけられる度に、バラバラの史実を紡ぎ合わせていくのは人間の想像力なんだな〜と感慨深く読みました。
旅行の予習として鎌倉が舞台の小説を片っ端から集めてみましたが、よく考えてみると義経の活躍の舞台はほとんど鎌倉ではないのですね。鎌倉では、鶴岡八幡宮の若宮上棟式で大工の馬を引かせられる件。平宗盛・清宗父子を生け捕り凱旋するものの、腰越で止められてしまう件。後は静御前が鶴岡八幡宮の廻廊で義経を想って舞った件。くらいでしょうか。
京都鞍馬山で修行。奥州平泉で青春。宇治川の先陣の話は木曾義仲を追って京都入りする時だし、平家を追い落としたのは神戸と山口でしたね。最近まで鵯越の逆落としは鎌倉の山中でのことだと思っていました。反省反省。
著者同時代の超大作 "宮尾本 平家物語" にも挑戦したいところです。
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